大判例

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東京地方裁判所 昭和24年(行)95号 判決

原告 堺司郎

被告 淀橋税務署長

一、主  文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、「被告が昭和二十四年四月十五日に原告に対してした昭和二十三年度所得額の更正(所得額六十五万七千円、税額二十五万三百三円)を取り消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、つぎのとおり述べた。

「原告は、肩書地において社交喫茶店を経営する者であるが昭和二十三年度においては、昭和二十二年政令第百十八号飲食営業緊急措置令により飲食店における酒類の販売が禁止されていたので、営業は振わず、七坪の営業所を利用し、女給四人を雇つて、コーヒーの販売をしていたに過ぎないため、その収入は尠かつた。

原告は昭和二十三年度所得税の四月予定申告において、所得金額の見積額を金二十三万五千円、所得税額の見積額を金八万九百四十七円として申告した。しかるに同年十月に至つて淀橋税務署の係員は、数回に亘つて原告ら同業の組合員一同と会合打合したのち、組合をとおして原告に対し、その所得金額の見積額を金五十万七千円、所得税額の見積額を金二十三万九千百十五円に割り当て、且つ、もしこれに不服であれば、直ちに差押をするとの強硬な態度を示した。そこで原告は止むを得ず、同年同月三十日にみぎの数額による修正予定申告をしたのである。その間原告は異議を申し立て帳簿の検査を要求したのであるが被告は、その調査をして呉れなかつたのである。そして昭和二十四年三月一日に至り、突如として原告の営業所である家屋を差押処分に付し、さらに同年四月十五日に組合をとおし、その所得金額を六十五万七十円、税額二十五万三百三円と割り当て、その旨の更正をして来た。

しかしながら、原告の昭和二十三年度の真実の所得金額は金二十四万九千百円で、その所得税額は金九万五千五百円にすぎない。原告の昭和二十二年度の所得税額は金六万余円で、しかもこれは被告の査定にかかるものであるが、前年度と同様酒類の販売を禁止されていた昭和二十三年度の所得も、殆んどこれと異るところはなかつたのである。そこで原告は、前記被告の更正を不当として、昭和二十四年四月十五日に異議を申し立て、審査請求書を淀橋税務署に提出したのである。しかるに審査請求に対して何らの決定を与えられないから、原告は請求の趣旨記載の判決を求めるため本訴に及んだ。」

なお、被告の主張に対し、つぎのとおり述べた。

「被告は原告が審査請求をしたことを争うけれども、被告の事務の取扱は一般に粗雑であつて、その受附簿に登載されていないという事実をもつて、これを否認するのは不都合である。またかりに原告が被告の主張するとおり、昭和二十四年四月十五日に修正確定申告をしたものとしても、それは数回に亘る組合員と税務署員との会合打合の結果にもとずいて、原告がその意思に反して提出させられたものであり、且つ税務署員の強迫的言辞をもつて割り当てられたものであるから、該申告は無効である。しかもそれは、税務署員の割当によるものであるからみぎ割当は、結局所得税の賦課行為に外ならない。」

被告指定代理人は、本案前の答弁として、主文同旨の判決を求め、「原告は、被告が所得税の賦課処分を行つたと称して、その賦課処分の取消を求めている。被告は後述するように、原告主張の賦課処分を行つたことはないのであるが、それはともかくとして、原告が賦課処分を受けたとしてその取消を求めんとする以上、行政事件訴訟特例法第二条に従い、先ず審査請求等の訴願手続を経由したのちでなければ訴を提起できないのである。しかるに原告は賦課処分について審査請求等の訴願手続を経由することなくして本訴に及んだものであつて、畢竟、本訴は行政事件訴訟特例法第二条に違反する不適法な訴として却下さるべきものである。」と述べ、

本案につき、請求棄却の判決を求め、答弁として、つぎのとおり述べた。

「原告の主張事実中、原告がその肩書地において女給四名以上を使用し酒類を含む飲食物を提供するいわゆる社交喫茶業を営むものであること、原告主張の当時、その主張のように政令によつて飲食店における酒類の販売が禁止されていたこと、原告が昭和二十三年度所得税について、同年七月三十日に四月予定申告書を、同年十月三十日に十月修正予定申告書を各提出して、その主張のような所得金額及び所得税額の各見積額の申告をしたことは、いずれもこれを認める。原告その余の主張事実を争う。原告は昭和二十三年度所得税の所得金額及び所得税額について前述のように、四月予定申告及び十月修正予定申告をしたうえ昭和二十四年二月二日にみぎ修正予定申告と同額の確定申告をしたが、さらにみぎ同日に所得金額六十六万円、所得税額三十三万八千三百九十八円の修正確定申告書を被告あてに提出したところが原告は、みぎ申告にかかる所得税の納付を怠つていたので、被告はその第一期分納付につき昭和二十三年九月二十八日に、第二期分納付につき同年十一月二十五日に、第三期分納付につき昭和二十四年二月十九日にそれぞれ納付方督促状を原告に送達したのであるが、原告においてなお納付しないので、やむを得ず、同年三月一日に滞納処分をしたのである。そうして、その間に被告は、原告主張のような課税処分を行つたことは全くない。そもそも税務署長は申告を不当と認めるときは、更正処分を行うこと勿論であるが、これを不当と認めないときは、更正処分を行うことなく、申告に基き直ちに税の徴収をするのであつて、この場合には訴訟において取消の対象となる賦課処分は存在しないのである。従つて原告の本訴請求は理由がないから、棄却されるべきである。」

三、理  由

およそ、行政処分の違法を主張して、その取消を求める、いわゆる抗告訴訟において、その処分に対し、訴願等の行政庁に対する不服の申立のできる場合には、原則として、その方法を経るを要することは、行政事件訴訟特例法第二条の規定に明かに定められている。そうして、所得税法の定める所得金額又は所得税額の更正に対しては、審査の請求をすることができることは、同法第四十九条の規定の定めるところである。いま本件において、原告は被告において更正をしたと主張して、その効力を争うのであるが、これに対し審査の請求をしたことはこれを認めるに足る証拠がない。また、訴願の裁決を経ないことについて、正当の事由があることの主張及び立証もない。してみれば、原告の本件訴は、この点において訴訟要件を欠くから適法でない。なお弁論の全趣旨によれば、原告主張の更正は不存在であり、本訴はむしろ原告のした修正確定申告の効力を争う趣旨であると認めらるから、国に対し租税債務関係の不存在を主張するは格別、行政庁である被告に対する抗告訴訟としての権利保護の利益を欠くものといわねばならない。これを要するに、本件訴は、不適法として、これを却下すべきものと認め、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 中西彦二郎 西岡悌次 山本進一)

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